◆ 【翻訳】チャネル・ファイアーボール チーム・パンテオンによる、基本セット2015リミテッド統計
Pantheon Testing – Magic 2015 Limited Stats
By Matt Costa 2014年8月7日
http://www.channelfireball.com/articles/pantheon-testing-magic-2015-limited-stats/
大きなチームに所属してプロツアー調整をすることで得られるもっとも貴重な側面の一つに、世界最強のプレイヤーたちとドラフト練習ができるということがある。チーム・パンテオンでは毎日、カバレッジ記者を悔しがらせるようなドラフト卓が立っていた。
ジョン・フィンケル(Jon Finkel)、リード・デューク(Reid Duke)、ウィリアム・「ヒューイ」・ジェンセン(William "Huey" Jensen)、ジェイミー・パーク(Jamie Parke)、オーウェン・ツァーテンウェルド(Owen Turtenwald)、サム・ブラック(Sam Black)、ポール・リーツェル(Paul Rietzl)、トム・マーテル(Tom Martell)
身内ドラフト14回目の面々だ。そうそうたる面々だろう?
プロツアーに向けての準備だけど、新たな試みとして、ドラフトの記録をExcelに記録して集計してみることにした。ドラフトを大きな視点で捉えて全体像をつかみたかったのだ。記録したのは、個人の勝率、色別の勝率、どの色の組み合わせが選択されたか、それにデッキのとった戦略だ。
特に重要なのは、色の「密度」だ。要はどの色が最も選択されるかで、40%なら4割のプレイヤーがその色を選択したと思ってほしい。これを算出することで、特定の色に平均して何人のプレイヤーが参入するかを推定することができる。色の密度と勝率を合わせると、色の人気を織り込んでの強みが浮き上がってくる。たとえば、緑の勝率が良くて、緑が不人気だったのなら、勝っているのは許容人数以下の人しか緑をやっていなかったので、強いパーツがふんだんにとれたから、という可能性が高い。また、一色が人気でかつ勝率も高ければ、その色は他の色より単純に強い確率が高い、というようなことがわかる(色が強いというのは、その色のカードの質が高かったり、使用に堪えるカードが多かったりするということ)
マジックで統計を取る常として、標本数は重要な問題だ。チームパンテオンでは数字を絶対的な金科玉条とは捉えていなくて、指針というか、論点として使っていた。今日話す数字のほとんどは、チームで考察したアーキタイプや色の強みと合致していたので、試みとしては成功したと思う。
今回の記事では、チーム内でやった16回のドラフトについて筆者が集めた数値をお見せして、各色とアーキタイプについて、観察したところを述べようと思う。
白
チーム内で白は一番人気な色の一つで、かつ最も勝率の高い色だった。記録に現れた数値を見るにつけ、基本セット2015のドラフトでは、白が最強色なだけでなく、卓で複数のプレイヤーが取ろうとしても枯れない色だと確信するに十分なものだった。
白最強のコモンは《三つぞろいの霊魂/Triplicate Spirits》だが、三つぞろいの霊魂は大概のアンコモンやレアよりも強いカードだ。霊魂は面白いカードで、色拘束が結構きつく(白白のダブルシンボル)、戦略性も要求される(召集のために軽いクリーチャーを多くしたい)。結果的に、山と適度な色サポートでもあればどんなデッキにでも入り得る《稲妻の一撃/Lightning Strike》のようなカードとは対照的に、三つ揃いの霊魂は白をかなりガッツリやる人用になる。各色の最強カードは、しばしばタッチで使ってやろうというプレイヤーの餌食になるものだが、三つぞろいの霊魂に限ってはそういうことが起きづらい。霊魂に関しては、序盤中盤終盤いかに隙がないとか、はたまた押されてるときや押しているとき、このカードがいかに強いか、いくらでも続けられそうだけれど、まあ言わんとすることはわかるよね。
他の白い優良コモンは、《清められた突撃/Sanctified Charge》(どんなデッキで使っても強いが、白の濃いデッキで使うのが一番)や、《急報/Raise the Alarm》や《キンズベイルの散兵/Kinsbaile Skirmisher》のような軽いカードなど枚挙にいとまがない。
青
一方で、青は基本セット2015のリミテッドで最弱色だと思う。チーム内でも青は比較的人気がなく、旗色も悪かった。青は人数過剰で沈んだわけではない。単純に色として強くなかったのが原因だろう。基本セット2015のリミテッドにおいて、青はいつもの自分を見失った感がある。アイデンティティ・クライシスって奴だね。強いコモンの上から2枚である、《天空のアジサシ/Welkin Tern》と《霜のオオヤマネコ/Frost Lynx》は前のめりなテンポデッキで使うのが一番輝くけど、その次と次の次に来るコモンはおそらく《珊瑚の障壁/Coral Barrier》と《予言/Divination》になる。こちらはどちらも守備的なコントロール戦略に合致したカードだ。
強いコモンの性質が割れているため、青は立ち位置が微妙になってしまっている。青は殴りに行きたいのに、アジサシやオオヤマネコのような素晴らしいカードを活かすには軽量クリーチャーが不足している。《現実からの剥離/Peel from Reality》も、単純にテンポを奪うカードではないので、前のめりなデッキにとって癖がある。青を絡めたコントロールにとっても、今度はアジサシやオオヤマネコのようなカードがそれほど欲しいわけではないというのが厄介だ(とはいえ、オオヤマネコは守る目的で使ってもまあまあ強いが)。
結果的に、基本セット2015の青の一番いい使い方は、赤いビートダウンデッキのサポートか、黒を中心としたコントロールのお供ということになりそうだ。
黒
黒の統計を見ると面白いことになっている。勝率は47%と低めだが、色の人気的には上位と並んでいる。このことから、黒は若干、許容人数を越えて取られる傾向にあるのだと思う。その理由は、黒はコモンに、《肉は塵に/Flesh to Dust》と《血の誓約/Covenant of Blood》という優良除去を2種も抱えているからだろう。加えてアンコモンには、《潰瘍化/Ulcerate》、《刺し傷/Stab Wound》、《グレイブディガー/Gravedigger》と強力なカードがひしめいている。これだけ強力なカードが目白押しだと、パックを開けたときに一番強いカードが黒、というのが高頻度で起きることになる。すると結果として、多くのプレイヤーが最初は黒を中心に取ることになる。そしてあまりに黒継続路線でいくプレイヤーが多いと、弱いデッキしかできないという事態になりがちだ。特に黒の場合危険なのは、沼が多いデッキでないと活躍しづらいカードが多い。《肉は塵に/Flesh to Dust》や《血の署名/Sign in Blood》などがそうだ。
緑
緑はメインカラーに据えるのに最適だ。戦力としてあてにできるカードがたくさんあるし、強力なコモンもある。それにどの色と組んでも相性がいい(とはいえ個人的に、青緑はやりたくないところだ)。コモンでは、《包囲ワーム/Siege Wurm》、《エルフの神秘家/Elvish Mystic》、《網投げ蜘蛛/Netcaster Spider》あたりが逸品だ。
チームパンテオンでは、特に包囲ワームの評価がとても高かった。しかし後で分かったことだが、包囲ワームは誰しもが高く評価していたわけではなかったらしい。プロツアーのドラフトでは、結構遅くまで包囲ワームが残っていることが多かった。チームパンテオンのメンバーは、それを美味しくいただいた模様だ。召集については、後でもう少し詳しく話したい。
赤
赤は基本、攻める色だ。そして攻めることに関して、赤の右に出る色は無い。赤は立ち位置的に黒の真逆で、《稲妻の一撃/Lightning Strike》やアンコモン数種を除いて、早い段階から取りたいカードがほとんどない。結果的に、序盤から中盤に赤へ参入したプレイヤーが一番恩恵に預かれることになる。色の密度的な話をすれば、口を開けて待っていれば赤いカードが取れるほどではないにせよ、それほど頑張らなくてもカードは集まるといった感触だ。
それぞれの色を単体で理解するのは、ドラフトの側面の一つに過ぎない。それぞれの色が、他の色と組んだときどの程度成果を出しているかも考えなくていけないだろう。
下が2色の組み合わせを表にしたものだ(それに赤単も。赤単はドラフトでよく目にしたので)。
一つ一つの詳細には立ち入らないけど、紙面を割くだけの価値がある組み合わせがあるので少し触れたい。
白緑
白緑が今回一番の勝ち組だ。その驚異的な勝率は、なんと67%にもなる。更に白緑は、2色の組み合わせの中で、最も選択されることが多かった色だ。強いカードに恵まれており、使用に堪えるカードの多い色でもある。それに白緑は他のどの色よりもシナジーが多い。白緑の一番いい組み方は、クリーチャー密度を濃くして召集にデッキを寄せることだ。白緑にはたくさんの軽いクリーチャーがコモンにいて、《三つぞろいの霊魂/Triplicate Spirits》、《包囲ワーム/Siege Wurm》、《衆生の熾天使/Seraph of the Masses》、《清められた突撃/Sanctified Charge》といったカードを活かすのにうってつけなのだ。
中でも今尚通用する法則として、クリーチャーの多いデッキほど勝率も高かった。《剛力化/Titanic Growth》、《儚き盾/Ephemeral Shields》、それに《かき集める勇気/Gather Courage》でさえ、チーム内のドラフトでは高評価されていなかった。とっても抜けていくことすらしばしばだったのだ。一方で、《無私の聖戦士/Selfless Cathar》、《魂癒し人/Soulmender》、《青銅の黒貂/Bronze Sable》といった、普通の環境ならお声がかからないような有象無象のクリーチャーが、基本セット2015では非常に強いのだ。
《清められた突撃/Sanctified Charge》は、一見わかりにくいがデッキ最大の強みになる。この手の全体強化は過去の環境だと微妙なものだったが、突撃は白最強のコモンの一つで、基本セット2015全体で見ても指折りの強カードといえるだろう。
超弱そうな白緑でも、チームパンテオンのドラフトで見る限り、見た目よりずっと強いことが常だった。
赤黒
一方で、赤黒は2色の組み合わせの中で最も勝率の低い組み合わせだったが、人気はある組み合わせだった。先にも述べたとおり、基本セット2015のリミテッドは色の密度とクリーチャーが強いところで、層の厚さもクリーチャーも赤と黒の得意分野ではないのだ。一般的に、基本セット2015で呪文の多いデッキは勝ちにくいようで、これは一般に呪文が強い、赤と黒が共通してこの環境で抱える弱点でもある。私自身を含めて、赤黒で除去をたくさん詰め込んだ強そうに見えるデッキを作っても、思ったほど上手くいかないことが多々あった。
赤単
赤単はほとんど超前のめりになることが多かったが、上で話した赤黒と同じ問題を抱えていた。しかしながら、アーティファクトをテーマに据えた赤単はかなり好成績を残している(《屑鉄場の雑種犬/Scrapyard Mongrel》とか《爆片破/Shrapnel Blast》を採用するやつだ)。アンドリュー・クネオ(Andrew Cuneo)が、《発生器の召使い/Generator Servant》4枚と6マナ圏4枚、エレメンタル指定する《ウルドのオベリスク/Obelisk of Urd》(召使いと《鉱夫の破滅/Miner’s Bane》もエレメンタルだ!)というデッキを組んで3-0していたことがあった。
総論
基本セット2015は、過去の基本セットと比べてやりがいのある濃い環境だ。この実態は直感的には分かりにくい。主に比較的弱めな呪文と、適当な1/1クリーチャーの強みが中心となって、この特殊な実態を作り上げている。デッキ内のクリーチャー密度が濃いということは、《現実からの剥離/Peel from Reality》や《槌手/Hammerhand》のようなテンポを取るカードが、普通の環境より弱いということでもある。バウンスやブロック不可を作り出すようなテンポ呪文は、守るクリーチャーが1,2体しかいないときに有効で、盤面に生物がひしめいているような状況では効果が薄い。一方で《清められた突撃/Sanctified Charge》は、前のセットで《鼓舞する突撃/Inspired Charge》のようなカードはぼんやりした数合わせ要員だったのに対し、この環境の清められた突撃は、ゲームを決める威力のある《踏み荒らし/Overrun》だ。
基本セット2015では一見、前のめりなデッキを組むのが難しい。《松明の悪鬼/Torch Fiend》のような、適当なパワー2のクリーチャーを並べてコンバットトリックで押し込む戦略を取っても上手くいかないことが多い。この環境の殴るデッキは、早くに盤面を埋め尽くして、回避能力で勝つか《三つぞろいの霊魂/Triplicate Spirits》、《天空のアジサシ/Welkin Tern》、《クレンコの処罰者/Krenko’s Enforcer》など)、押して《清められた突撃/Sanctified Charge》や《溶岩の斧/Lava Axe》を使って一撃でゲームを決められるよう心を砕いている。
基本セット2015のコントロールは反対に、横に広がる相手を捌かなくてはならない。その用途でいくと、初見では貧弱に見えるだろうが、《爛れ暗がり/Festergloom》は黒の最強コモンだ。《爛れ暗がり/Festergloom》は三つぞろいの霊魂に対処できる数少ないカードの一つで、盤面で後手に回っていても押し返せる可能性すら生まれる。珊瑚の障壁や爛れ暗がりのようなカードこそが強くて、1:1交換として弱い《硬化/Encrust》のようなカードは、コントロールですら少々手が出しづらい。
序盤のクリーチャーをいなしておくと、三つぞろいの霊魂や包囲ワームといった終盤出てくるカードが唱えられるのを1,2ターン遅らせることができるということを覚えておいてほしい。この数ターンの差は非常に大きいことが多い。
基本セット2015のリミテッドは爆弾レアによって勝敗の決まるゲームがしばしばある。基本セットだとそれ自体は珍しいことでないが、今回は特に明言しておく必要があるだろう。結果的に、《雲散霧消/Dissipate》、《肉は塵に/Flesh to Dust》、《光の柱/Pillar of Light》といったカードには、ゲームを決めかねないレアや神話レアへの保険という側面が新たに生まれることとなる。《現実からの剥離/Peel from Reality》や《虚空の罠/Void Snare》を使うことで時間を稼いで、爆弾レアでゲームが支配されてしまう前に殴り倒すことも視野にいれていいだろう。使う側からすると、黒緑で墓地を利用するデッキが、最も早く確実にデッキ内の爆弾レアへアクセスしやすい。
今回とった統計手法を改良して、今後のプロツアーに役立てたい。チーム内でもかなり有用なデータという見解が出ているものの、もっとしっかりした構造にして、有用そうなところを掘り下げられるようにしたい。タッチ色と土地の枚数を調べるのが、さしあたって次の課題だろうか。アイディアは大歓迎だから是非投下してくれ。
読んでくれてありがとう。
Matt Costa
@mattccosta
Pantheon Testing – Magic 2015 Limited Stats
By Matt Costa 2014年8月7日
http://www.channelfireball.com/articles/pantheon-testing-magic-2015-limited-stats/
大きなチームに所属してプロツアー調整をすることで得られるもっとも貴重な側面の一つに、世界最強のプレイヤーたちとドラフト練習ができるということがある。チーム・パンテオンでは毎日、カバレッジ記者を悔しがらせるようなドラフト卓が立っていた。
ジョン・フィンケル(Jon Finkel)、リード・デューク(Reid Duke)、ウィリアム・「ヒューイ」・ジェンセン(William "Huey" Jensen)、ジェイミー・パーク(Jamie Parke)、オーウェン・ツァーテンウェルド(Owen Turtenwald)、サム・ブラック(Sam Black)、ポール・リーツェル(Paul Rietzl)、トム・マーテル(Tom Martell)
身内ドラフト14回目の面々だ。そうそうたる面々だろう?
プロツアーに向けての準備だけど、新たな試みとして、ドラフトの記録をExcelに記録して集計してみることにした。ドラフトを大きな視点で捉えて全体像をつかみたかったのだ。記録したのは、個人の勝率、色別の勝率、どの色の組み合わせが選択されたか、それにデッキのとった戦略だ。
特に重要なのは、色の「密度」だ。要はどの色が最も選択されるかで、40%なら4割のプレイヤーがその色を選択したと思ってほしい。これを算出することで、特定の色に平均して何人のプレイヤーが参入するかを推定することができる。色の密度と勝率を合わせると、色の人気を織り込んでの強みが浮き上がってくる。たとえば、緑の勝率が良くて、緑が不人気だったのなら、勝っているのは許容人数以下の人しか緑をやっていなかったので、強いパーツがふんだんにとれたから、という可能性が高い。また、一色が人気でかつ勝率も高ければ、その色は他の色より単純に強い確率が高い、というようなことがわかる(色が強いというのは、その色のカードの質が高かったり、使用に堪えるカードが多かったりするということ)
マジックで統計を取る常として、標本数は重要な問題だ。チームパンテオンでは数字を絶対的な金科玉条とは捉えていなくて、指針というか、論点として使っていた。今日話す数字のほとんどは、チームで考察したアーキタイプや色の強みと合致していたので、試みとしては成功したと思う。
今回の記事では、チーム内でやった16回のドラフトについて筆者が集めた数値をお見せして、各色とアーキタイプについて、観察したところを述べようと思う。
勝ち 負け 勝率 密度 ドラフト1回あたりの使用率
緑 79 74 52% 40% 3.19
青 61 70 47% 34% 2.73
白 83 67 55% 39% 3.13
黒 72 81 47% 40% 3.19
赤 75 74 50% 39% 3.10
白
チーム内で白は一番人気な色の一つで、かつ最も勝率の高い色だった。記録に現れた数値を見るにつけ、基本セット2015のドラフトでは、白が最強色なだけでなく、卓で複数のプレイヤーが取ろうとしても枯れない色だと確信するに十分なものだった。
白最強のコモンは《三つぞろいの霊魂/Triplicate Spirits》だが、三つぞろいの霊魂は大概のアンコモンやレアよりも強いカードだ。霊魂は面白いカードで、色拘束が結構きつく(白白のダブルシンボル)、戦略性も要求される(召集のために軽いクリーチャーを多くしたい)。結果的に、山と適度な色サポートでもあればどんなデッキにでも入り得る《稲妻の一撃/Lightning Strike》のようなカードとは対照的に、三つ揃いの霊魂は白をかなりガッツリやる人用になる。各色の最強カードは、しばしばタッチで使ってやろうというプレイヤーの餌食になるものだが、三つぞろいの霊魂に限ってはそういうことが起きづらい。霊魂に関しては、序盤中盤終盤いかに隙がないとか、はたまた押されてるときや押しているとき、このカードがいかに強いか、いくらでも続けられそうだけれど、まあ言わんとすることはわかるよね。
他の白い優良コモンは、《清められた突撃/Sanctified Charge》(どんなデッキで使っても強いが、白の濃いデッキで使うのが一番)や、《急報/Raise the Alarm》や《キンズベイルの散兵/Kinsbaile Skirmisher》のような軽いカードなど枚挙にいとまがない。
青
一方で、青は基本セット2015のリミテッドで最弱色だと思う。チーム内でも青は比較的人気がなく、旗色も悪かった。青は人数過剰で沈んだわけではない。単純に色として強くなかったのが原因だろう。基本セット2015のリミテッドにおいて、青はいつもの自分を見失った感がある。アイデンティティ・クライシスって奴だね。強いコモンの上から2枚である、《天空のアジサシ/Welkin Tern》と《霜のオオヤマネコ/Frost Lynx》は前のめりなテンポデッキで使うのが一番輝くけど、その次と次の次に来るコモンはおそらく《珊瑚の障壁/Coral Barrier》と《予言/Divination》になる。こちらはどちらも守備的なコントロール戦略に合致したカードだ。
強いコモンの性質が割れているため、青は立ち位置が微妙になってしまっている。青は殴りに行きたいのに、アジサシやオオヤマネコのような素晴らしいカードを活かすには軽量クリーチャーが不足している。《現実からの剥離/Peel from Reality》も、単純にテンポを奪うカードではないので、前のめりなデッキにとって癖がある。青を絡めたコントロールにとっても、今度はアジサシやオオヤマネコのようなカードがそれほど欲しいわけではないというのが厄介だ(とはいえ、オオヤマネコは守る目的で使ってもまあまあ強いが)。
結果的に、基本セット2015の青の一番いい使い方は、赤いビートダウンデッキのサポートか、黒を中心としたコントロールのお供ということになりそうだ。
黒
黒の統計を見ると面白いことになっている。勝率は47%と低めだが、色の人気的には上位と並んでいる。このことから、黒は若干、許容人数を越えて取られる傾向にあるのだと思う。その理由は、黒はコモンに、《肉は塵に/Flesh to Dust》と《血の誓約/Covenant of Blood》という優良除去を2種も抱えているからだろう。加えてアンコモンには、《潰瘍化/Ulcerate》、《刺し傷/Stab Wound》、《グレイブディガー/Gravedigger》と強力なカードがひしめいている。これだけ強力なカードが目白押しだと、パックを開けたときに一番強いカードが黒、というのが高頻度で起きることになる。すると結果として、多くのプレイヤーが最初は黒を中心に取ることになる。そしてあまりに黒継続路線でいくプレイヤーが多いと、弱いデッキしかできないという事態になりがちだ。特に黒の場合危険なのは、沼が多いデッキでないと活躍しづらいカードが多い。《肉は塵に/Flesh to Dust》や《血の署名/Sign in Blood》などがそうだ。
緑
緑はメインカラーに据えるのに最適だ。戦力としてあてにできるカードがたくさんあるし、強力なコモンもある。それにどの色と組んでも相性がいい(とはいえ個人的に、青緑はやりたくないところだ)。コモンでは、《包囲ワーム/Siege Wurm》、《エルフの神秘家/Elvish Mystic》、《網投げ蜘蛛/Netcaster Spider》あたりが逸品だ。
チームパンテオンでは、特に包囲ワームの評価がとても高かった。しかし後で分かったことだが、包囲ワームは誰しもが高く評価していたわけではなかったらしい。プロツアーのドラフトでは、結構遅くまで包囲ワームが残っていることが多かった。チームパンテオンのメンバーは、それを美味しくいただいた模様だ。召集については、後でもう少し詳しく話したい。
赤
赤は基本、攻める色だ。そして攻めることに関して、赤の右に出る色は無い。赤は立ち位置的に黒の真逆で、《稲妻の一撃/Lightning Strike》やアンコモン数種を除いて、早い段階から取りたいカードがほとんどない。結果的に、序盤から中盤に赤へ参入したプレイヤーが一番恩恵に預かれることになる。色の密度的な話をすれば、口を開けて待っていれば赤いカードが取れるほどではないにせよ、それほど頑張らなくてもカードは集まるといった感触だ。
それぞれの色を単体で理解するのは、ドラフトの側面の一つに過ぎない。それぞれの色が、他の色と組んだときどの程度成果を出しているかも考えなくていけないだろう。
下が2色の組み合わせを表にしたものだ(それに赤単も。赤単はドラフトでよく目にしたので)。
色 勝ち 負け 勝率
白緑 30 15 67%
赤白 16 11 59%
青赤 16 13 55%
黒緑 19 20 49%
赤緑 13 14 48%
赤単 10 11 48%
白黒 17 19 47%
青白 16 20 44%
青黒 13 17 43%
青緑 11 16 41%
赤黒 13 20 39%
色 ドラフト1回あたりの発生率
白緑 0.94
黒緑 0.81
青白 0.75
白黒 0.75
赤黒 0.69
青黒 0.63
青赤 0.60
赤白 0.56
赤緑 0.56
青緑 0.56
赤単 0.44
一つ一つの詳細には立ち入らないけど、紙面を割くだけの価値がある組み合わせがあるので少し触れたい。
白緑
白緑が今回一番の勝ち組だ。その驚異的な勝率は、なんと67%にもなる。更に白緑は、2色の組み合わせの中で、最も選択されることが多かった色だ。強いカードに恵まれており、使用に堪えるカードの多い色でもある。それに白緑は他のどの色よりもシナジーが多い。白緑の一番いい組み方は、クリーチャー密度を濃くして召集にデッキを寄せることだ。白緑にはたくさんの軽いクリーチャーがコモンにいて、《三つぞろいの霊魂/Triplicate Spirits》、《包囲ワーム/Siege Wurm》、《衆生の熾天使/Seraph of the Masses》、《清められた突撃/Sanctified Charge》といったカードを活かすのにうってつけなのだ。
中でも今尚通用する法則として、クリーチャーの多いデッキほど勝率も高かった。《剛力化/Titanic Growth》、《儚き盾/Ephemeral Shields》、それに《かき集める勇気/Gather Courage》でさえ、チーム内のドラフトでは高評価されていなかった。とっても抜けていくことすらしばしばだったのだ。一方で、《無私の聖戦士/Selfless Cathar》、《魂癒し人/Soulmender》、《青銅の黒貂/Bronze Sable》といった、普通の環境ならお声がかからないような有象無象のクリーチャーが、基本セット2015では非常に強いのだ。
《清められた突撃/Sanctified Charge》は、一見わかりにくいがデッキ最大の強みになる。この手の全体強化は過去の環境だと微妙なものだったが、突撃は白最強のコモンの一つで、基本セット2015全体で見ても指折りの強カードといえるだろう。
超弱そうな白緑でも、チームパンテオンのドラフトで見る限り、見た目よりずっと強いことが常だった。
赤黒
一方で、赤黒は2色の組み合わせの中で最も勝率の低い組み合わせだったが、人気はある組み合わせだった。先にも述べたとおり、基本セット2015のリミテッドは色の密度とクリーチャーが強いところで、層の厚さもクリーチャーも赤と黒の得意分野ではないのだ。一般的に、基本セット2015で呪文の多いデッキは勝ちにくいようで、これは一般に呪文が強い、赤と黒が共通してこの環境で抱える弱点でもある。私自身を含めて、赤黒で除去をたくさん詰め込んだ強そうに見えるデッキを作っても、思ったほど上手くいかないことが多々あった。
赤単
赤単はほとんど超前のめりになることが多かったが、上で話した赤黒と同じ問題を抱えていた。しかしながら、アーティファクトをテーマに据えた赤単はかなり好成績を残している(《屑鉄場の雑種犬/Scrapyard Mongrel》とか《爆片破/Shrapnel Blast》を採用するやつだ)。アンドリュー・クネオ(Andrew Cuneo)が、《発生器の召使い/Generator Servant》4枚と6マナ圏4枚、エレメンタル指定する《ウルドのオベリスク/Obelisk of Urd》(召使いと《鉱夫の破滅/Miner’s Bane》もエレメンタルだ!)というデッキを組んで3-0していたことがあった。
総論
基本セット2015は、過去の基本セットと比べてやりがいのある濃い環境だ。この実態は直感的には分かりにくい。主に比較的弱めな呪文と、適当な1/1クリーチャーの強みが中心となって、この特殊な実態を作り上げている。デッキ内のクリーチャー密度が濃いということは、《現実からの剥離/Peel from Reality》や《槌手/Hammerhand》のようなテンポを取るカードが、普通の環境より弱いということでもある。バウンスやブロック不可を作り出すようなテンポ呪文は、守るクリーチャーが1,2体しかいないときに有効で、盤面に生物がひしめいているような状況では効果が薄い。一方で《清められた突撃/Sanctified Charge》は、前のセットで《鼓舞する突撃/Inspired Charge》のようなカードはぼんやりした数合わせ要員だったのに対し、この環境の清められた突撃は、ゲームを決める威力のある《踏み荒らし/Overrun》だ。
基本セット2015では一見、前のめりなデッキを組むのが難しい。《松明の悪鬼/Torch Fiend》のような、適当なパワー2のクリーチャーを並べてコンバットトリックで押し込む戦略を取っても上手くいかないことが多い。この環境の殴るデッキは、早くに盤面を埋め尽くして、回避能力で勝つか《三つぞろいの霊魂/Triplicate Spirits》、《天空のアジサシ/Welkin Tern》、《クレンコの処罰者/Krenko’s Enforcer》など)、押して《清められた突撃/Sanctified Charge》や《溶岩の斧/Lava Axe》を使って一撃でゲームを決められるよう心を砕いている。
基本セット2015のコントロールは反対に、横に広がる相手を捌かなくてはならない。その用途でいくと、初見では貧弱に見えるだろうが、《爛れ暗がり/Festergloom》は黒の最強コモンだ。《爛れ暗がり/Festergloom》は三つぞろいの霊魂に対処できる数少ないカードの一つで、盤面で後手に回っていても押し返せる可能性すら生まれる。珊瑚の障壁や爛れ暗がりのようなカードこそが強くて、1:1交換として弱い《硬化/Encrust》のようなカードは、コントロールですら少々手が出しづらい。
序盤のクリーチャーをいなしておくと、三つぞろいの霊魂や包囲ワームといった終盤出てくるカードが唱えられるのを1,2ターン遅らせることができるということを覚えておいてほしい。この数ターンの差は非常に大きいことが多い。
基本セット2015のリミテッドは爆弾レアによって勝敗の決まるゲームがしばしばある。基本セットだとそれ自体は珍しいことでないが、今回は特に明言しておく必要があるだろう。結果的に、《雲散霧消/Dissipate》、《肉は塵に/Flesh to Dust》、《光の柱/Pillar of Light》といったカードには、ゲームを決めかねないレアや神話レアへの保険という側面が新たに生まれることとなる。《現実からの剥離/Peel from Reality》や《虚空の罠/Void Snare》を使うことで時間を稼いで、爆弾レアでゲームが支配されてしまう前に殴り倒すことも視野にいれていいだろう。使う側からすると、黒緑で墓地を利用するデッキが、最も早く確実にデッキ内の爆弾レアへアクセスしやすい。
今回とった統計手法を改良して、今後のプロツアーに役立てたい。チーム内でもかなり有用なデータという見解が出ているものの、もっとしっかりした構造にして、有用そうなところを掘り下げられるようにしたい。タッチ色と土地の枚数を調べるのが、さしあたって次の課題だろうか。アイディアは大歓迎だから是非投下してくれ。
読んでくれてありがとう。
Matt Costa
@mattccosta
コメント
すみません!!素早い指摘ありがとうございました!!
助かります。
長文記事だとどうしてもミスが増えますね。
l個人的には1ピック目中盤の段階まで赤黒を目指してても最終的に白or緑+黒に落ち着く傾向はあるとは思っていたけれど…
白緑は盤面に触れにくい事から器用さが足りずに
勝ちにくいカラーだと思っていたけど。
この召集環境だと随分と変わるのかな。
これは今まで見た中で最もレベルの高いM!5リミテッド記事だと思います。
複雑な本文だったと思いますがとてもわかりやすく訳されていて助かります。
ドラフトで数値化されたデータとその内容が記載された記事の翻訳って滅多にないのでとてもありがたいです。
長文翻訳ありがとうございました。
まあ、勝てないといっても上手くいかないことがあるというだけで、全く勝てないわけではないですからね。
三つぞろいの霊魂であっさりイカれたりする印象は確かにあります。
体感だと赤がそこまで空いている印象がないので、赤黒を目指せたことがないです。
> ヒキニパさん
確かに普通、白緑は除去薄い筆頭ですので、システムクリーチャーなどで負けやすいですよね。
今回は最低限の除去があり、かつクリーチャーの強い色というのが、召集環境とうまく噛んだのかもしれません。
> dds666さん
どうもありがとうございます。
本文は複雑というほどでもありませんでしたが、いかんせん説明調になる単語が多かったです。
しかし、コメントもらえるとやって良かったと思いますね。
> いぜっと@オルゾフ組さん
データに基づいた記事は面白いしためになりますよね。
データだけでなく、きちんと文章もついていたので非常に整理できました。
個人的に、どんな環境でもクリーチャーの数はなるべく多めに確保するようにしているのですが、今回の環境にはそのクセがマッチしていた模様です。
これからも翻訳お願いします!
リンクさせていただきました。
コメントありがとうございます。
コミュニティを盛り上げるために頑張ります!
こちらかもリンクさせていただきますね。
油断するとすぐ人の定職を失わせようとしてくるから困る
ダイアリーノートをはじめたので、リンクさせていただきました。
ご挨拶まで
どうもどうも!ご丁寧にありがとうございます。
こちらからもリンクお返しいたしますね。